お節介野郎 -4/15 [北陸短信]
.by 刀根日佐志
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しばらくすると、その店先にケーキ、半額セールの張り紙があったかと思うと、数日後に閉店の看板に変わっていた。その店はケーキ店になる前は回転寿司の店であった。隣町の行列の出来る回転寿司の繁盛店は、相変らずの活況を呈しているのに較べ、何時も閑散としていた。妻が運転する車で五郎は、中学生の息子と、その回転寿司店の前を通ったことがある。その時も客の姿は見当らなかった。
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「この店はいつも人が入ってないなあ。どう思う」
このようなことには、関心がないと思いながらも、五郎は息子に意見を求めてみた。
「こんな人通りの少ない所に、回転寿司の店はないよなあ。場所が悪すぎるちゅうの。僕だったら、別の場所を選ぶよ!」
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予想を超えた息子の言葉を聞いて五郎は、ハッとした。そして隣の席に座る息子の表情を黙って見つめた。中学生の息子が、日頃、町の片隅で何気なく生じている事柄にも、問題意識を持っていることに改めて気づき、半ば満足をした。
中学生すら立地に疑問を呈した回転寿司の店は、間もなく姿を消していったが、それ以来、五郎は何かとこの場所に、こだわりを持ちながら眺めていた。ケーキ店の次は何の店が来るだろうか。
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この場所は何の店を開いても繁栄を見ることのない、客から見放された辺鄙な所である。
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・例え辺鄙な場所であろうが、繁盛店を作る方法がある筈である。なんと言う情けない者ばかりであろうか。
反骨精神の旺盛な五郎はついつい呟いてしまうのであった。なんとなく今度、出来た店を心情的に応援したくなっていた。
ケーキ店が閉店すると、すぐ改装が始まった。客席が見渡せる大きな窓ガラスには、大仏の大きな掌をデザインしたと思われる茶色のカッティングシートが張られて、その脇から見える店内は何となく暗く感じられた。
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・大仏の掌の飾りは、信心深さを意味しているのだろうか。長野、善光寺の仁王門近くの、八幡屋磯五郎商店を真似して、唐辛子の販売でもする気かな。仏具でも陳列するのだろうか。いや、この人通りの少ないところでは無理だ。
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