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お節介野郎 -3/14 [北陸短信]

                                                   .by 刀根日佐志                                                 

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 奥さんは、静まり返っている焼肉屋の方を見ながら小声で言うと、何か解決策を考えているかのように車の周辺を見渡していた。

「ちょっこ、私に車のキー貸してみられ!」

 五郎から車のキーを受け取り、その車の前に立った。そして、奥さんは息を強く吐き出し、細い体のお腹を一層薄くすると、不可能と思われた車と車の狭い空間に、蟹の如く体を横に滑り込ませた。僅かな隙間から運転席のドアを開き、細い手で窓ガラスを開けると、車の屋根に両手をのせた。そして、懸垂宜しく細く伸びた両足を持ち上げると、開いた窓から両足を先に、身体を運転席に潜り込ませた。

五郎は数分間の美人曲芸師の華麗な技を堪能し、喝采を送りたい気持で見ていた。彼女のスリムな身体のどこに、こんなエネルギーが、隠されているのか感心しているうちに車の脱出は完了した。

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今頃、焼肉屋の主人は呵責の念を持ちつつも、「してやられた!」と苦々しい思いで、どこかから、きっと覗き見をしているのではないだろうか。そっと、焼肉屋の二階の窓を見遣ると、カーテンが微かに揺れているように思えた。

ケーキ店の奥さんは華麗な技を終えると、安心したように肩で息をした。そしてぼそぼそと呟くように喋った。

「以前は、運転席側に一台の車を寄せて置いていただけで、助手席側から乗れば問題がなかったがに、段々と意地悪くなったが」

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この様なことがあってから、この場所のケーキ店に関心を持つようになり、お店の繁盛を願っていた。

それから間もなく、そのケーキ店から数百メートル先の大通りに全国チェーンの洋菓子の安売り店がオープンした。するとケーキ店の店先にはパッタリと客の姿を見掛けなくなってしまった。


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