お節介野郎 -1/15 [北陸短信]
.by 刀根日佐志
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春の清清しい朝、空虚な頭の中を、さわさわと風が吹き抜けていく。すると、真っ青な空の色が、脳の中まで染み入るような、芳潤で晴れ晴れした気持になる。毎日、散歩をしていると、こんな気分を味わうことが偶にある。その時は、行き交う人の表情も爽やかに見える。
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T小学校の横道を通ると、生き生きとした表情で、小学生の幾つもの集団が、通って行く。子供達は弾むような声で、陽気に語らいながら、ゴムのような弾力のある動作と躍動感のある歩き方で、校門に吸い寄せられるように入って行った。その後には、爽快感が漂っていた。
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五郎は妻と二人で富山県の片田舎で洋品店を営んでいた。誰からも失敗すると言われていた立地条件の悪い所に洋品店を開こうと決断し、それを軌道に乗せたのは五郎であった。しかし今では妻に任せっきりで、ときどき店に顔を出すが、五郎は自由気侭に毎日を送っていた。それを妻は咎めようともしなかった。店員を三人使い妻は店を切り盛りし、店は大いに繁盛していた。
五郎は五十歳を過ぎると、頓に出てきたお腹を気にして朝昼二回の散歩をするようになった。今日は朝にも同じコースを歩いた。
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T小学校を通り過ぎて、K駅方向へ歩くと左手に先頃オープンしたケーキ店があり、細い通り一つを跨いで焼肉屋があった。焼肉屋には客がいなかったが、小綺麗にしたそのケーキ店の小さな店先には、三人の客がケーキの品定めをしながら買物をしている姿を目にした。奥ではご主人がパティシエを務め、中年の美人でスタイルのよい奥さんが、店先で客に、にこやかに応対しケーキの販売をしていた。
その清楚な雰囲気は、ケーキを美味しそうに見せている。特に、室内照度を落とし、ショウインドは程よい明りにしてあるので、その照明とケーキの色彩とが融合して、お菓子の国からメロディーが流れて来るようである。
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