還って来た日々 -25/25 [北陸短信]
刀根 日佐志
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終わりになるが、同級生と仁のことに少し触れておこう。
ナミはその後、家業の鉄工業を継いで、今日も鉄を削ったり穴を開けたりして、機械部品を製作している。ナミは元来、真面目で堅実な性格であった。高度経済の最中にも、無理をした工場の拡張を選ばず、小人数の規模で今日まで地道に仕事を続けている。
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残念ながら、あの木鋏は、もう作っていないらしい。従って、コークス炉や機械ハンマーは現在、工場の中には見あたらない。何となく寂しい気がしてならない。
トノは家業が大きな木材業であったが、何度かの不況と、また変化の激しい業界に追従できずに、さっさと廃業してサラリーマンになった。思いきりの良い淡白な性格は、見切るのも早い。勤めは何度か変わったらしいが、現在も働いていると聞く。
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テイ子をはじめ女性たちは、暖衣飽食の時代にあって、身体の体系を一サイズ上げて、意気軒昂と、お孫さんに囲まれ元気に暮らしていると聞く。
仁のことにも少々ふれておこう。大学に進むと運動部に入り、ラグビーに力を入れ過ぎたためか七年間かかり卒業した。従って、三郎と同時に社会人になった。中堅商社に入り、その後、とんとん拍子で出世し、若くして役員になった。
しかしその直後、会社を辞めた。なにを思ったか田舎に引っ越し、農地を買い農業をして生活している。若いときから将来は自然を相手にしたいと言っていたが。自分の意志を変えない性格は、終始、貫かれていて今も変わらない。
(完)
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