還って来た日々 -23/25 [北陸短信]
刀根 日佐志
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同窓会は終盤に差し掛かったが、盛り上がりは続いた。
トノは手拭で頬被りをすると、どこから探してきたのか、手に籠を持っている。安来節を歌いながら、泥鰌掬いを始めた。
安来節が終わるとサイは大声で言う。
「わしは炭坑節を踊るちゃ」
皆は炭坑節を歌い出す。サイは目尻を下げると、笑みを漏らしながら、しなやかな手付きで舞い始める。
今度はサイが芸者ワルツを歌うと、トノ、ナミも参加して器用に踊り始めた。少年時代に大人たちが熱唱し踊っていたものを、半世紀の歴史の重みを載せて、皆が歌い乱舞した。そして、その重みを噛み締めている。
禿げ上がったトノの頭と、ナミの顔にある深い皺、喉の皮膚の弛みを見た。年輪は確実に身体の各部分に刻まれ、そこには、本人のみ知る苦楽の人生履歴があるに違いないと三郎は思った。中杉先生の方に目をやった。先生の前には人垣がある。未だに、皆を束ねて、ご意見番的な存在感を持つ。
先程、ナミには、
「深酒はやめるがいよ。トシオを見なさい」
トシオが酒で身体を壊し、命を落としたことを引き合いに出した。
ナミは素直に、
「分かったちゃ。最近は、あまり飲まんがや」
と先生に視線を移すと笑顔を見せた。
トシオは中学を卒業すると、運送店で運転手として働いていた。二十年以上前のことだが、お酒の飲みすぎで肝臓を悪くしていた。三郎がトシオのお母さんに金沢で会ったとき、東京でトラックの運転手をしているトシオを、お母さんが電話口に呼び出した。そして、お酒を止めるように三郎から伝えてくれと頼まれて、三郎は電話でトシオと話したことがあった。
「トシオ、元気ですか。三郎です」
「サブか、俺はもう駄目らしい……」
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蚊の鳴くような小さな声が聞こえてきた。
「トシオ、君のお母さんが大変心配しているよ」
「……」
「だいぶ具合が悪そうだね」
「うん……」
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