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還って来た日々 -16/25 [北陸短信]

                                刀根 日佐志

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その年の冬は寒かった。降り続いた雪は、屋根や道路を覆い、軒下には氷柱が垂れ下がった。道行く人は、雪を踏みつけながら歩く。踏み固められた雪の表面には、ゴム靴底の波型の跡や、踵の凹みが幾つも見える。さらに踏まれると、歩きにくいごつごつした路面になる。そこに日の光が当たると、鏡のような輝きをみせ、踏むとつるつると滑った。

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日曜日の午前、仁とナミ、三郎は、照り輝く雪の上を、転ばないように腰を落として歩いた。金沢駅前の広場まで来ると、冷たい風が強くなり、首の辺りをぐるぐると旋回していく。思わず三郎は首をすくめた。

駅前広場では、商人たちが、鱈を売りに来ている。彼らは木箱から鱈を取り出すと、エラを開き短い縄を通し、それを鱈の口から取り出すと、結び目を作った。輪になった縄で、ぶら下げた大きな鱈を、群がる客たちに見せて値段を示していた。仁は商人たちの間を、うろうろと見て回っていた。

労働者風の男が、一人の商人に近付くと、

「これ、幾らや」

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 商人のつけた値段に、その男は言った。

「もっと負けろよ」

「お兄さん、この鱈はでかいやろ。(大きいでしょう)眞子やぞ。この値で精一杯や」

 商人の威勢の良い言葉と、睨みを利かした目付きに、客の男は気後れしている。しぶしぶ財布からお金を取り出すと鱈を受け取った。そして自転車のハンドルの所にぶら下げると、そのまま帰って行った。


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