還って来た日々 -14/25 [北陸短信]
刀根 日佐志
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季節が夏から秋に変わろうとしていた。その夕方は蒸し暑く、外で夕涼みをした。耳障りな蝉の鳴き声が、一日の終りを惜しむかのように鼓膜に響いている。蒸し暑い空気が覆い被さるように、身体にへばり付き、ひとりでに汗がにじみ出てくる。三郎は外に長椅子を持ち出した。そしてうちわを手に、蚊を払いながらトシオ、ボウ、ナミとで縁台将棋をした。三郎は五年生になっていた。そこへ、六年生のミチオがやってきた。
「今から、西念まで行って度胸試ししまいか」
ミチオが前屈みになると、突然言い出す。
「度胸試しで、なにするがけ」
皆はミチオに聞いた。
「暗い所で、度胸試しすると面白いぞ」
「すぐそこの西念まで歩いて行くんや、そこでや」
なにやら好奇心を煽るような言い方で、ミチオは話をする。
「……」
「わしについて来い。そしたら分かるちゃ」
ミチオは野球が上手で、背が大きくて足が速く、皆は尊敬していた。ミチオが強調したのでついて行くことにした。
「そんなら、行こか」
皆はミチオの後ろを歩いた。西念は近くにあり、梨畑が多い所である。目的地まで来ると、もう暗く遠くまで視界が届かない。
「お前ら、この梨畑へ入って梨を盗るがや、それが度胸試しや」
ミチオは説明をした。
「そんなことしたら、捕まるが」
皆は口々に言った。
「わしら時々、来て、盗っとるから大丈夫やちゃ。暗いと、誰もおらんちゃ」
ミチオは説得口調で話をすると、梨畑の脇の細い所から中へ入って行った。
三郎、ナミ、トシオ、ボウが躊躇していると何度も「お前たちも早く入れ」と中からミチオが小声で叫んだ。三郎の胸は、ドキドキと音をたてて鳴り出したが、皆で梨畑の中に入った。背伸びしたり、ジャンプして梨を取った。左右のポケットに、二個入れたときである。
「泥棒! 梨泥棒、泥棒」
けたたましく、大きな怒鳴り声が響いた。ミチオは「逃げろ、逃げろ!」と叫ぶと、もう姿が見えなかった。
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