還って来た日々 -12/25 [北陸短信]
刀根 日佐志
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ナミ、トシオが恐怖に満ちた声を出した。三郎もただ見守るだけだった。
三郎は仁の無鉄砲な行為が、取り返しのつかないことになりはしないかと恐れた。相手は有名な不良たちだと思うと、胸がドキドキと鳴る。仁は三人組に、どんどん近づいて行く。ちみつなところもあるが、無鉄砲で気の強い仁は、三人の内、誰か一人を捕まえて殴りかかるに違いないと三郎は考えた。
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(兄貴は右よりを歩いている。右端の一人をターゲットにしているがや。これはまずいちゃ。「鬼」と恐れられている東町左官屋の長男や。真ん中を狙えばいいがに)
皆よりも右側で、見ていた三郎は呟いた。
仁は毅然とした表情は崩さず、もう三人組の直前まで来た。三対一の視線が複雑に絡み、今にも結ばれた視線から、火花が散る瞬間が迫った。三人組の目付きが鋭くなり、両手を曲げて肘を腰の辺りに付け、握り拳を作って身構えている。仁は手をだらりとさせて、身構える様子はない。
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三人組からすれば、仁は袋の鼠であり、なされるがまま三人組に身を委ねたと思ったに違いない。ふらふらと吸い込まれるように、「鬼」の直前二メートルまで近付く。まさに、この瞬間、「鬼」と仁の間では雷光が走った。そこまでは仁の後ろ姿を見ることができたが、その後が素早い。気が付くと「鬼」の後方を、とうに仁は走り抜けている。
「どうしたがや」
ナミがすっとんきょうな声を上げた。
「分からんちゃ」
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トシオは、きょとんとした顔をして叫んだ。でも三郎には、確かに見えた。
「鬼」の立つ所には、右手には鋳物工場がある。右手の側溝に平行して、その工場の軒下に当たるところには、人が一人通れるくらいのコンクリートが敷かれたスペースがあった。仁は「鬼」の正面へ飛び込むと見せて、右へと、そのスペースへ跳び、今度は「鬼」の後ろに回り込み走り去った。即ち、「鬼」の正面をコの字型に、通り抜けたのである。
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