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空母の技術 二題 -2/7 [稲門機械屋倶楽部]

                                2010-12-09 WME36 村尾鐵男

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空母からの発進

 空母で運用される戦闘機の例として、少々古い機種ですが、F-4 Phantom でお話をすると、機体が空中に浮くまでに、地上の滑走路であれば750mほどの長さが必要で、この距離を離陸滑走すれば、対気速度が200km/hほどに達して宙に浮くことができます。ところが、空母の飛行甲板は300mほどしかないので、空母から飛行機を発進させるのは飛行機の速度を増す手段が必要であって、一つはカタパルトで飛行機の速度を上げ、もう一つは空母を風上に向かって走らせて対気速度を上げることです。

 空母から飛行機が発進する場面は映画やテレビでよく映されますが、濛々たる水蒸気で覆われるので皆さんも御存知と思いますが、蒸気カタパルトを使っているからです。

 今どき蒸気とは古いと思われる方も多かろうと思いますが、蒸気は今でも熱エネルギーを動力エネルギーに変換する有力な媒体であり、決して古くはありません。原子力発電は最先端技術と信じている方が多いのですが、U235の核分裂反応で生ずる熱エネルギーで水を熱し、これによって得られる過熱蒸気で蒸気タービンを回転させて発電機を駆動しています。いわゆる火力発電も蒸気タービンと発電機の組み合わせです。

 蒸気の持つ特性には得難いものがあり、それは「力を溜める」ことができることです。高圧高熱の蒸気をタンクに溜めておき、これを一気に解き放てば大きなエネルギーが出ます。ガソリン・エンジンにも電気モーターにもできない芸当で、蒸気機関車が長く重たい貨物列車を牽いて発進できたのも蒸気が持つこの特性のお陰です。

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 空母の発進甲板には二本か三本の溝が設けてあり、この溝の中を蒸気カタパルトのフックが走っていますが、このフックはシャトルと呼ばれますが、これを飛行機の首輪を押すように引っ掛けてカタパルトを動かすと、溜めた蒸気の力でシャトルが勢いよく走り、飛行機を押して加速させます。

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蒸気カタパルトの「エネルギー大喰い」

 アメリカ海軍の空母は原子力推進ですから、原子力発電と同じで、高圧高熱の蒸気を容易に得ることができて、これで発進用カタパルトを作動させます。原子力に非ざる通常型空母では蒸気ボイラーを焚いて蒸気を得ます。

 しかし、飛行機を発進させるために消費する蒸気の量は膨大であり、ましてや重たい哨戒機も発進させるためには空母自体の推進力も犠牲にしなくてはなりません。

 蒸気を発生させて高圧で溜め、これでカタパルトのシャトルを高速で走らせるシステム自体が高度の軍事技術であり、かつてのソ連海軍も空母は建造したものの、蒸気カタパルトが作れないままになっており、その廃艦空母を買って再生工事中の中国海軍も同じ弱点を抱えたままです。


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