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唐詩選と陶酔の世界 -4 [稲門機械屋倶楽部]

                  2010-09-05 WME36 村尾鐵男

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【莫謾愁沽酒 嚢中自有銭】

〔謾(ミダ)りに酒を沽(カ)うことを愁(ウレ)うこと莫(ナカ)れ。嚢中(ノウチュウ)自(オノ)ずから銭(ゼニ)有り〕

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八仙の一人、賀知章が詠んだ詩の一節で、〈漫然と酒ばかり買っていると配するな。財布の中にはそのくらいの銭は有るよ〉との意味です。賀知章は唐王朝の政庁で高い地位にありましたから、酒を買い続ける小遣いに困ることはなかったでありましょう。尚、賀知章は86歳まで生命を保ち、当時として異例の長命で、少なくとも酒で余命を縮めた実例にはなりません。

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【此身醒復酔 乗興即為家】

〔此の身醒(サ)め復(マ)た酔う。興に乗じては即(スナワ)ち家と為(ナ)さん〕

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八仙よりも酒が好きで強かったと思われる杜甫の詩で、〈醒めては再び酔う。興が乗れば、そこが我が家だ〉の意味です。

私にも若い頃は経験がありますが、酒が入って酔えば酔うほど家へ帰るのを忘れ、又、家へ帰るのも億劫になり、その場で寝たくなることがあります。杜甫は本物の酒飲みです。

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15年程前、私は中国江蘇省の泰興(タイシン)市へ仕事で度々通いました。泰興市は大きな行政区としては揚州に属しますが、長江(揚子江)を挟んで南京の対岸に位置します。初めて訪ねたときは、未だ高速自動車道が上海から南京まで通ずる前で、一般道を走ること5時間の苦行を強いられました。長江を遡上する船にも乗りましたが、上海の埠頭から泰興市の船着場まで10時間を要しました。概ね長江の岸に沿って走り、ときにフェリーで長江を横断するのですが、あるとき別の道を走って上海へ戻ったことがあります。

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南京の街中を抜け、長江から離れて南西方向へ走り、大湖の南岸へ進むのですが、小高い丘陵の尾根伝いに走る道で私は李白や杜甫を思い浮かべました。

文学の素養を欠く私には表現が大変難しいのですが、南京南西部の丘陵地帯には酒が飲みたくなる光景が続き、李白や杜甫もこのような大自然に抱擁されて秀逸な詩を次々と詠んだのであろうと想像しました。

ただ、この道程は空腹に耐えることを強いられます。ところどころに集落があって、食べる場所もあるのですが、私達が到底入れることのできる衛生度ではなく、水だけを飲みながら上海まで戻らなくてはなりません。

(5)に続く


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