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こげ茶色の細い竹 -18/21 [北陸短信]

刀根 日佐志

   
細い線や何本ものチューブが交錯して、胸や腕の上を這い回っている。ベットの脇にある計器が、波形を描いて揺れ動いている。心臓の動きを、監視している装置なのであろうか。しばらく、側に立っていたが、左右の腕を動かしたり、浴衣から剥きだしになった足をばたつかせたりしていた。
  
何とか起こしてみようと思ったが、大声を掛けたり、身体を揺さ振ったときに、点滴チューブが外れたりしたら問題が生ずる。何か差し障りがあってはならない。
  
このような病人の扱いは、どうしたらよいのか分からない。家人ならよいが、他人が黙ってこの場所にいて、病人に異常状態が発生したら、次郎が何かしたのではないだろうかと、疑われかねない。 
   
廊下に出て、看護師が通ったら、先生を起こしてもらおうと考えた。幸い廊下に出たところに、椅子があったので暫く座っていた。
   
病室からパジャマ姿の患者が、トイレに入って行くのを見かけただけで、誰も通らない。ときどき咳が聞こえるが、ほかの物音はしない。そこには、寂し気な廊下が伸びていた。
  
このソファーに座っているだけでは、何にもならないと思うと、次郎は自分がここにいることに違和感を覚えた。
  
見渡してみたが、四階には病室しかなさそうである。三階まで階段を下りてみた。すぐ目の前に、蛍光灯があかあかとついたナースステーションがあった。看護師が三人、テーブルを挟んで、書類を見て話し合っていた。
  
次郎は声を掛けた。
「連絡があったので、沖峰さんの病室に行ったのですが、寝ております。どうすればよろしいですか」
「K市の方ですか。先ほどの電話の」
 若い看護師の返答に次郎は安心した。電話があったときの、最初に出た人は看護師だったのだ。
「一緒に行きましょう。いま寝ているので起こしてあげますよ」
 話が終わると、すぐさま看護師は、飛び跳ねるように階段を上って行った。次郎は遅れて後を追ったが、病室に着くともう大きな声で先生を起こしていた。
「K市の方がきましたよ!」
 看護師は先生が起きたのを確認すると、細い懐中電灯をポケットから取り出した。そして、喉の中を照らし笑顔で呼びかけた。
「喉は大丈夫ですね」
 痰が詰っていないことを、確認したのであろう。終わると、足早に病室を出て行った。
「夏山社長さん。お願いで……す」


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