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こげ茶色の細い竹 -10/21 [北陸短信]

刀根 日佐志
   その説明を聞くのも、時間が取られてしまう。と次郎は呟くが、いったん受話器を取ると、愛想のよい声で応対をした。
「評価の項目は、蔵書量、図書購入予算、外国人への配慮などいくつも思いつきます。私の考えで、評価点を入れると高得点が出ました」
  
先生の話を、仕事の書類を見ながら聞く。ときどき、質問をしないと変に思われるので、トンチンカンな質問にならないように注意をする。それに対して事細かに説明がある。聞かなければ、良かったと思う。さらに、長い電話になってしまった。今日も会社の書類整理が、深夜までかかりそうだと思い、受話器を置いた。 
   
K市では、十数人の外部委員により、図書館評価の会議が開かれた。次郎が司会をした。
   
最初に教育長の挨拶があった。教育界一筋のこの方は、どこから眺めても謹厳実直そのものである。巧言やハッタリは微塵もない。
「行政の事業が、市民の代表者により評価が行われるのは、恐らく全国で初めてのことと思われます。他に例を聞いたことがありません。また手法を決めることまで、行政ではなく、委員の方で進められたことは、稀であります。沖峰先生にご指導頂きましたが、この場を借りましてお礼申し上げます」
  
来賓席に座っていた先生は、丸い顔をますます丸くした。そして、口をすぼめるような仕草をすると、軽く頭を下げた。
  
担当者が毎日、仕事を自宅に持ち帰り、書類を作成したのであろう。分厚い資料を皆の前に配ると、説明がなされた。
「図書館の評価は、三分野に分けて採点をして頂きたいがです。図書館運営、管理、整備です。運営については、図書貸し出し、住民学習支援、利用拡大、広報、高齢者配慮などを見て採点してください」
 委員の方を見ながら、遠慮がちな、とつとつとした話し方であった。
 
顔色をうかがうように、教育長の方に視線を向けていたが、しっかりした解説であり、終始順調に進められた。各委員の採点結果は、先生が直ぐノートパソコンに入力し、プリントされた。
  
担当者はすばやく資料を配った。
「いま配布したのは、採点していただいたものを数式に入れ、評価結果を出したものながです」
  
渡された評価結果の図表を見て、一瞬ざわめきが起きた。だが、すぐ皆がその資料に見入っていた。担当者が重点を押さえた説明をしたので、思ったほど質問が出なかった。
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