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こげ茶色の細い竹 -6/21 [北陸短信]

                                                                        刀根 日佐志



   市役所と何度も打ち合わせした結果、先生の評価方法の採用が決まった。次郎は先生とK市役所に行き、図書館担当者に評価理論を講義することになった。今では、もうどこへ行っても見かけない、大型車体の三菱デボネアに乗って来た。ノートパソコンとプロジェクターを入れた大きな鞄を、車の後部座席から降ろした。それを肩に掛け、右手で支持棒の細い竹を持って、駐車場から歩いてきた。
「先生、珍しい車ですね。三菱グループ企業の多い東京丸の内で、以前には良く見かけましたが」
 高齢のわりに、このような旧式の大型車を、よく運転しているという思いと、もっと小型の車に乗ればよいという気持ちで、次郎は嫌味に聞こえないように話した。
「県内では、この車に乗っている人は、いないでしょう。大きいですが、運転しやすいですよ。私はこの車が好きでね」
 意外にも、この自動車に、愛着を持つ答えが返ってきた。
「今日は、数学的なことは省いて、評価式の活用に重点を置いた説明をします」
 それからも数回、担当者にプロジェクターを使い、ホワイトボードに映した図表を、指示棒で指し講義をした。先生が話をすると、周りの空気が、緊張から解き放たれた和やかな雰囲気が漂う。どんな質問にも、丁寧すぎるくらいの答えが返ってくる。
   
予定時間が過ぎても話が続くので、市役所の担当者は気まずそうな顔をして「先生、次の仕事がありますさかい、ここで終わってほしいがです」と講義を終わってもらった。
  
余り嫌な顔もしないで、先生はあっさり引き下がった。長い間、教鞭を執っていたので、どれだけ話しても疲れないのであろう。どこかで話を遮らないと、しゃべり始めた勢いはどこまでも続いていく。
「社長さん。すこし時間がありますので、市長さんがいらっしゃれば、ご挨拶に行きませんか。助役さんでもよろしいですが」
   
先生のこの評価に掛ける熱意は旺盛で、時間に余裕があれば、市長や他の部課へも挨拶に行きPRしようと次郎に催促する。
   
表情に出さないが、意欲的で心に沸き立つ情熱がある。どこから眺めても年齢を感じさせない。次郎は自分も、何事にも意欲を燃やすほうであると思っていたが、共通するところがある。
  
久しく、このような人と、出会ったことがない。何とか力になりたいと思った。


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