こげ茶色の細い竹 -5/21 [北陸短信]
次郎は、講演を聞いただけでは、全く理解ができなかった。また、資料を貰うと何らかの係わりができてしまい、身が引けなくなるなどと、考えていたら曖昧な返事になった。
次郎は東京で、大手の化学会社に勤務していた。十七年前に、四十歳で脱サラして、地元富山で商売を始めた。最初は二人で始めたが、今では、社員三十人の会社になった。地元にいると、PTA活動や自治会活動に誘いがかかる。その内に、K市役所の教育委員会など、いくつかの委員会から委員を委嘱されていた。
K市の図書館協議会では、委員長を務めていた。
その協議会で委員の一人から発言があった。
「市の図書館が、本当に有効利用され支持されているか、住民に評価をしてもらうとよい」
紺のスーツを着こなした教育長は、黙って話を聞いて、しばらく考えていた風であったが、その意見に同調した。
「もうそろそろ、住民に評価をしてもらう時期に来ていますね」
「私の以前に勤めていた会社で、人事評価制度がありました。その方法を応用すると図書館の分野に、使えるかもしれません。一度、検討してみます」
次郎は会社員時代のことを思い出し、その手法が使えるのではないかと考えた。
「夏山委員長、何かよい方法があったら、教えてください」
教育長から依頼を受けたので、自宅へ戻ると書類を調べてみたが見つからない。余計なことをしゃべってしまったと思いつつ、夕方のテレビに映るニュースを、漫然と見ていたらロボットの映像が映されていた。そのとき、ふと何にでも応用できるという、評価方法のことを思い出した。
沖峰先生の名刺を探すと、図書館の評価について電話で聞いてみた。すると、歯切れのよい答えが返ってきた。
「夏山社長さん。私の評価式を使えば、行政の事業はどの分野も可能です。図書館評価は、図書貸出し状況、住民学習支援、施設の充実度などの項目に分けて、点数や図表で結果表示ができます。誰が見ても、分かりやすいですよ。もう、喜寿を迎えております。欲はありません。ボランテアでご協力しますよ」
評価方法を普及させたいと考えていたらしく、学者然と偉ぶらない、やる気満々の弾んだ声が聞こえてきた。
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