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こげ茶色の細い竹 -2/21 [北陸短信]

                             刀根 日佐志


その日、次郎は中小企業経営者の集まりがあるホテル会場へ急いだ。そこでは、総会に先立って講演会が開かれていた。「今年のプロ野球チームは、どこが強いか(会社経営にも使える手法)」の興味をひく演題を、R大学名誉教授は、学生に講義をするように力むこともなく、大柄な身体の腹を突き出すようにして、いくぶん説得口調で淡々と話をした。
 
「色々なものを評価するのに、システム評価工学の数式を使います。プロ野球であれば、各チームの監督、投手力、守備力、得点力の項目について評価します。その点数を数式に入れると、どのチームが総合力に優れているかが、表示されます。
項目を経営者、社員の能力、技術力、取引先に変えると、会社の総合評価が出ます」
プロジェクターで演壇の後方スクリーンに、評価に使う数式と、その意義、各チームの順位や様々なグラフを映して説明した。長年の研究で試行錯誤の結果、考え出したという数式を熱っぽく強調していた。だが、初めて聞く者には、その数学式が、どのような意味を持つものか分からない。その得体の知れない式に数字を入れて、プロ野球のどのチームが強いと判断されても、理解出来なかった。
(数字を省き、普通の人が興味を示すように、例えば、プロ野球チームの巨人軍は、攻撃力に勝るが、ベテランが多くスピードに欠けると評価された。三、四番打者以外を若手にするとよい等と、具体的に説明すれば分かりやすい)と次郎はいらいらして聞いていた。だが、丸顔で白髪、切り揃えた白い口髭を蓄えた上顎と、お盆のように円弧を描いた先生の下顎が、小刻みに上下し一方的に話が続けられた。
 
参加者は(俺達は数学の話を聞きに来たのではないがや。どうしたら、会社が儲かるかを教えて欲しいが)と言わんばかりに、無表情で辺りを見回し時間が過ぎるのを、ひたすら待っているように見えた。
規定の一時間半を三十分超過し、しゃべり続けても物足りないらしく、演台の水をごくりと飲むと、先生は壇を不満そうに下りた。鉄腕アトム物語に、登場するお茶の水博士とそっくりな顔、大きな体の機敏な動きからは、あたかも、若者には負けてはいられないというメッセージが、発せられているように思われた。
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