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“民意に従え”は政治の自殺」適菜収著、産経2012/7/6 の紹介 [明治維新胎動の地、萩]

                                      By N.Hori


稲門の後輩の哲学者・適菜収氏〈1975年生〉が産経のコラム「賢者に学ぶ」に書いていることの紹介です。

消費税増税法案をめぐり政界で混乱が続いて、民主党が分裂した。こうした中、「国民の皆さんが納得しない」「増税は民意に背く」などと言い出す議員まで現れた。愚の骨頂である。そもそも政治家は政策決定において、安易に民意に従ってはならないのだ。政治家は有権者の御用聞きではない。政治家がやるべきことはただ一つ。議会で議論することである。移ろいやすい世論民意、熱しやすい世論から距離を置き、過去と未来に責任を持ち、冷静な判断を下すことである。我が国の将来にプラスになるなら増税すべきだし、マイナスになるなら阻止すべきである。その際、民意は関係ない。


「民意に従う」「国民の判断を仰ぐ」ことが正しいなら、すぐにでも議会を解体して、すべての案件を直接投票(民主主義)で決めればいい。現在では技術的にそれは可能だ。しかし同時にそれは、政治の自殺を意味する。直接投票で物事が決まるなら知性は必要なくなるからだ。人類の知の歴史が明らかにしてきたことは、民主主義の本質は反知性主義であり、民意を利用する政治家を除去しない限り、文明社会は崩壊するという事実である。


諸学の父・アリストテレスは、著書[政治学]において民意を最優先させた場合の民主政を、僭主政(正当な手続きを経ずに君主の座についた者による政治)に近い最悪のものと規定した。また、マッカシーズムとベトナム戦争を痛烈に批判したウオルター・リップマンは、ジャーナリズム論の古典「世論」で民意の危険性について分析している。「なぜなら、あらゆる種類の複雑な問題について一般公衆に訴える行為は、知る機会をもったことのない大多数の人たちを巻き込むことによって、知っている人たちからの批判をかわしたいという気持ちから出ているからである。このような状況下で下される判断は、誰がもっとも大きな声をしているか、あるいはもっともうっとりとするような声をしているか(中略)で決まる」


平成17年8月、郵政民営化関連法案が参議院で否決された。小泉首相は激怒し、「国会は郵政民営化は必要ないという判断を下した」「郵政民営化に賛成か反対かを国民の皆様に問いたい」と言い衆議院を解散した。これは憲政史上類例を見ない暴挙であり、我が国の議会主義が死んだ瞬間である。職業政治家の集団である参議院の判断を無視し、素人の意見を重視したのだから。


この20年にわたるメデイアの<民意礼賛>がおかしな政治家を生み出している。橋下大阪市長は「僕が直接選挙で選ばれているので最後は僕が民意だ」と、二言目には民意を持ち出し、自己正当化を行う。これはナチスのヒトラーが使った独裁のロジックとまったく同じものだ。歴史的に見て、デマゴーグは常に民意を利用する。リップマンが指摘したように、ステレオタイプ(紋切り、画一した)化した世論、メデイアが恣意的につくりあげた民意は、未熟な人々の間で拡大再生産されていく。政治家の役割は、こうした民意の暴走から国家・社会・共同体を守ることである。
                               完           
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noga

個人の努力だけでは幸福な生活は成し遂げられない事も多くあるから、社会のルールを作って成し遂げを可能にすることも必要である。
意見は、人・人により違っているから、自分の意見だけでは、社会のルール作りはできない。
そこで、個人個人が意見を発表し合って、最も人気のある個人意見を社会の意見としなければならない。
日本国憲法の内容は、私の意見と同じではない。
しかし、社会のルールと定めた以上は、私はそれに従わなくてはならない。それが、政治である。

http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://3379tera.blog.ocn.ne.jp/blog/


by noga (2012-07-06 17:10) 

ぼくあずさ

軽い感じだが、稲門の若手論客の一人として認められるか。
by ぼくあずさ (2012-07-06 19:42) 

N.Hori

アルマさん、rtfkさん、ma2ma2さん、Jさん、niceを有難度うございました。
nogaさん、ぼくあずささん、コメントを有難度うございました。
by N.Hori (2012-07-06 20:20) 

村尾鐵男

私も若い頃は「哲学者なんて」との思いが強くありました。
でも、今の世の中、政治家の質が下がるところまで下がり、国民の大多数が目標を見出し難い状況で、加えて、日本人の思考と思想が破壊されてしまっていら今、そろそろ哲学者の出番であろうと思い至っております。

ぼくあずさ氏が指摘するように、適菜収、未だ若くて思考が熟成していないところが散見されますが、勇気ある発言は歓迎します。
by 村尾鐵男 (2012-07-06 21:59) 

N.Hori

海を渡るさん、hakuさん、hanamuraさん、niceを有難度うございました。
by N.Hori (2012-07-07 17:44) 

N.Hori

あゆさこさん、夏炉冬扇さん、niceを有難度うございました。
by N.Hori (2012-07-10 19:39) 

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