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夢を追う男たち -15/18 [北陸短信]

.                               by 刀根 日佐志

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「現在、韓国向けの燃料節減装置を十台、製作中です」

 得意げな表情で話をした。

「売れているのですね」

「韓国政府の省エネ機械の認証をもらいました」

 と語る長柳の口元は、ほころんで少し訳ありげな顔で話を続けた。

「韓国の政治家にたくさんお金を使いました」

 胸元で右手の親指と人差し指で丸い輪を作り告白するような口調で話した。

「日本国内ではどうなのですか」

「国内は試験的に取付けたのが二台動いています。海外が先行したのです」

「樽本さん、是非、国内の販売を手伝って下さい」

彼は真剣な顔で荘一に頭を下げた。

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 帰り際に、事務所を出て、作業場を見ると奥の方で、革ジャンらしい厳つい顔の男が、熔接の火花を散らしていた。

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会社に戻り、幾つもの文献を調査した荘一は、この装置は省エネ対策になると結論を出した。取引先の会社に長柳の開発した装置を試験的に販売することにした。

一台の装置を売込中であるという報告をすると、唐突に、しかも連絡もなしに、装置が一台トラック便で送られてきた。続いて納品書と請求書も送付されてきた。

幸いにも売り先が決まりボイラに、この装置を取り付けることになった

その時は、消防署に装置、配管図の届出が義務付けられている。長柳に図面の送付を依頼した。

「図面は送れん、図面を要求するような所へはこの装置を売るな!」

電話口で彼の怒鳴る声がした。

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荘一は粘り強く話をしたが、彼には通用しないので、もう諦めた。消防署へ図面の届出を無視することは、法令違反である。潜りでその装置の取り付けをするわけにはいかない。

もう既にそんな時代ではないことを彼は理解していない。D航空出発ゲート待合室で、革ジャンの男と一緒に立ち上がった義侠心は一体何であったのか、荘一は(こんな、分らず屋を相手にすると、疲れるなあ)と嘆いた。それにしても長柳を信用し過ぎたことを荘一は反省した。

長い間の付き合いの中では、この様な「分らず屋」に出会うことが、まれにある。苦労を掛けたが、会社の設計担当には消防署への提出図面を、工夫して描いてもらうことにした。

新たな問題が生じた。現場で装置の取り付工事には装置の寸法図が、必要となるので要求すると「そんなものはない! 送れない」彼の常識の通じない身勝手な性格に翻弄させられた経験を思い出した。


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