夢を追う男たち -12/18 [北陸短信]
.by 刀根 日佐志
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荘一は以前に火傷を負った人のケロイドを見たことがある。元の皮膚が跡形もなく引きつった痛々しいものであった。彼の傷跡はしま模様で元の皮膚が残っているように見えた。後に、最近の外科治療は、体から皮膚の一部を採りプレスで何倍かに引き伸ばして、火傷部分に植皮するのだと聞いた。
「装置を商品化したのは素晴らしいですね、燃料節減とはどんな原理ですか」
荘一は根堀り葉堀り聞き出した。
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その原理も含め彼の開発した装置が、優秀な働きをするものであること、またその開発は苦難の道のりであったことを、彼は自画自賛を交えて強調した。
その時、あたふたと入室してきたD航空の職員が、カウンターのマイクでアナウンスを始めた。室内は静かになり皆が耳を傾けた。
「誠に申しわけ御座いません。韓国、金浦空港の濃霧による視界不良が回復しませんので、本日のフライトが中止になりました。明朝十時の臨時便にご搭乗下さい。本日はこれでお帰りください」
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皆から一斉に不満の大声が発せられると、それがざわめきに変わり待合室に満ち溢れた。しばらくすると、ざわめきは消えていった。
その時突然、長柳と革ジャンが立ち上がり、カウンターまで走り寄った。すると革ジャンは荒々しくマイクを握りしめた。
「我々を朝十時から八時間も待たせておいて、これで帰れとは何事だ、責任をとれ!」
革ジャンは室内に響き渡る甲高い声で叫んだ。
勿論、室内にいた皆の視線は二人に集中した。
「そうだ、その通りだ」我々の気持を代弁してくれたのだ。皆はそう思ったに違いない。荘一も胸につかえていたしこりが、消えていくのを感じた。
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もう一度革ジャンは荒らしく声を張り上げた。
「我々は大事な時間を費やして待っていたのだ。何とかしろ!」
すると革ジャンは、机上にあったマイクのコードを引きちぎり、マイクを卓上スタンドごと力一杯、床に投付けた。
ガーンと高い音をたてて床に大きく弾んだ。卓上スタンドから外れたマイクは、カウンターに当たり真横に飛ぶと、客席の椅子の下に滑り込んだ。そのマイクのコードだけが端を少し見せていた。待合室は一瞬、シーンと静まり、次いで、どよめきが起こり拍手に変わった。
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