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夢を追う男たち -10/18 [北陸短信]

                               .by 刀根 日佐志

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果たしてフライトが可能なのか、荘一は、いまなお航空会社の対応に疑念を抱いていた。待合室の免税店でタバコや洋酒を買い求める者や、待ちくたびれて椅子に座り込んでいる者も多くいた。

荘一が座る椅子の隣では、六十歳前後と思われる町工場の社長らしい男と、三十歳位で、体格の良い革ジャンを着た男との二人連れが座っていた。

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二人とも背が高いのであろうか、椅子から長い足を、放り出して座っている。グレーの背広で細い体を包んだその社長らしい男は、時々、厳つい顔付きをした革ジャンからの話しかけには、頷きもせずに聞いていた。やがて、彼は一本の煙草をくわえ火を点けると、大きく吸い込み、天井に向け煙を吐き捨て、安心したように目を瞑った。

四方から昇り始めた煙草の青白い煙は、室内照明に照らし出されると、くっきりとしたまだら模様の浮雲のように、不規則な動きで上昇した。天井まで達すると、その煙は、むせ返るような淀みの中に吸い込まれていった。

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荘一がそっと横を向き、その男に話しかけた。

「お仕事で韓国へ行かれるのですか」

 目を開けて、なおも一服を吹かした後、右のまぶたから頬に掛けて、火傷で出来たと思われる傷跡のある細長い顔を、面倒臭そうにこちらに向けた。手の甲から手首にも大きな傷跡がある右手で、煙草の火を消した。

「私の開発した装置が、韓国で採用されたのでソウルへ行くところです」

細い長い目を見開き、大きな口を動かした。何となく彼の顔や態度から、職人気質であるが野心家の匂いがした。


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