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お節介野郎 -14/15 [北陸短信]

                                                      .by 刀根日佐志                                              

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そのそばで五郎は話を聞いていたので、事情が飲み込めた。どうもコック帽の二人が大阪の道頓堀でコック見習いとして働いているときに、幼稚園生が裏の道頓堀川に落ち、溺れそうになっているのを、コック帽の二人で助けたことがあるらしい。その幼稚園生の親がこのチンドン屋のリーダーであったようだ。五年くらい前のことで、リーダーにしてみれば、息子の命の恩人であるコック帽の二人に、富山の地で、しかも思いもかけない所で、再会したのである。

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超満員という夢のような出来事が、一日だが訪れた『インド』は、その後、一、二日は数人の客の姿を見たが、また、元の閑散とした店に戻ってしまった。正しく、三日天下であった。大きな絶頂から絶望への落差に、得体の知れない神の悪戯があったと思わずにはいられないのであろう。静けさが訪れると、料理人としての実力の無さがもたらす無力感を、ひしひしと感じているに違いない。

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しばらくしてから五郎が店の前を通ると、コック帽の二人は、客席の椅子を二、三脚引き寄せた上に足を長々と乗せていた。そして、向かい合って寝そべっている姿が、時々、見掛けられるようになった。相変わらず店内には人影はなくガランとしている。

それからも、溝蓋対策の努力が続けられていた。道路工事の時に良く見掛ける、あっちへお回り下さいと迂回指示する、真横に太い矢印の付いた矢印板が、溝蓋の前に置かれていた。それを見て五郎は、その場に立ち尽くしてしまった。

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それでは、この店を避けて行って下さいとの指示である。近くの廃材置き場に探しに行ったらこんな物しかなかったのであろう。さすがに、矢印板の真の意味に気が付いたのか、その直後には矢印板は取り払われて、溝蓋の前は侵入を防ぐパイプスタンドの仕切りに置き換えられていた。


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