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創作短編(19):県犬養三千代 -5/8 [稲門機械屋倶楽部]

                                        2011-05 WME36 梅邑貫

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「不比等の三人の女御とはな、先ず、蘇我媼子(ソガのオウシ)、次ぎが、五百重娘(イオエのイラツメ)、この女御は不比等の父鎌足の娘で、不比等には異母妹になるのじゃ。一度は我が夫の天武天皇の女御となったが、天武天皇亡き後に不比等の女御になりおった。三人目が賀茂比売(カモのヒメ)じゃ」

 三千代は無言で聞いた。特に、持統天皇が五百重娘を語るときには言葉が刺々しさを帯びたので、三千代は余計な言葉を挟まぬ方が無難と考えた。

「正室は蘇我媼子だが、暫く前に亡くなられた。それでじゃが、不比等が私に頼みに参ったのだ」

「何をでございますか」

「三千代、そなたに来てもらいたいそうじゃ」

 三千代は思わず身体が硬くなったが、思い切って尋ねた。

「蘇我媼子様の跡でございますか」

「そうじゃ。私は不比等に尋ねた。三千代は私の大切な命婦であって、珂瑠皇子の乳母。正室として迎えるなら、三千代に話し勧めるが、ただの女御なら相ならぬとな」

 三千代は持統天皇を見上げ、その次の言葉を待った。

「不比等も心得ておった。三千代、そなたを正室として迎えるそうじゃ」

「でも、持統様、不比等様のお妹御が」

「五百重娘のことか。委細、心配りは要らぬ。確かに不比等の妹であり、我が夫の女御であったが、正室としての心構えを欠いておるから、三千代には到底敵わぬ。なればこそ、不比等はそなたを望んでおる。如何じゃ」

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 持統天皇からこれほど懇請されて断ることはできない。でも、気になるのは先夫の美努王との間に産んだ三人の子である。その三千代の表情を持統天皇は素早く読んだ。

「そなたの三人の子は私に任せるがよい。どうじゃ」

「はい。不比等様のもとへ参ります」


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